職域の地図2026.07.08監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

薬事職のキャリアパス — 専門性はどう積み上げれば市場価値になるか

この記事の要点

「地味な仕事だと思われがちなんですけど、実は会社の中で一番、法律を読んでいる自信があります」——製薬企業で薬事職を8年務めてきた方が、面談で少し誇らしげにそう話してくれました。地味という評価と、替えのきかない専門性が同居しているのが、薬事という職種の面白いところです。

皆さま、薬事職を「研究職になれなかった人が就く仕事」というイメージで捉えていませんか。これは業界内でもよくある誤解で、実態とはかなり違います。薬事は「研究の代わり」ではなく、研究の成果を世に出すための独立した専門職です。

0. 薬事職とは何をする仕事か

薬事職は、新薬・医療機器の製造販売承認申請、添付文書(医薬品の用法・用量・副作用情報などを記載した公的文書)の管理、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づく各種届出を担う職種です。研究開発部門が作成した試験データを、規制当局(日本では医薬品医療機器総合機構・PMDA)に提出できる形に整える、いわば研究と規制をつなぐ翻訳者のような役割を担います。承認後も添付文書の改訂や副作用報告への対応など、製品が市場にある限り薬事の仕事は続いていきます。

1. 「地味だが替えがきかない」という評価の正体

率直に言うと、薬事の仕事は華やかさとは無縁です。ですが、新薬の承認には薬事の専門知識が不可欠であり、この専門知識を持つ人材がいなければ、どれだけ優れた研究成果を出しても製品として世に出すことができません。研究がどれほど画期的でも、規制の壁を越えられなければ患者さんの手元には届かないのです。本物の専門性は、目立たない場所にこそ宿るというのが、薬事職を見てきた僕の率直な感想です。

1-1. 面接での使い方——「法規制をどう読み解いたか」を語る

薬事職の面接では、法規制の条文を丸暗記しているかどうかより、「実際にどう解釈し、どう申請書類に落とし込んだか」という実務のプロセスが問われます。過去に対応した申請案件で、規制当局からの照会事項にどう回答したか、具体的なやり取りを語れるように準備しておくことをお勧めします。

1-2. よくある失敗——資格の有無で自信を失う

薬剤師資格を持っていないことを理由に、薬事職への転身をためらう方が少なくありません。ですが薬事職は資格必須の仕事ではなく、生命科学系・化学系の学部出身で製剤・品質管理の実務経験がある方が転身するケースも一定数あります。資格よりも、法規制を読み解く力と文書作成の正確さのほうが重視される職種です。

2. 専門性の積み上げ方——独学の限界と実務の蓄積

本物の専門性は座学だけでは育ちません。規制当局とのやり取りという実地の経験値が、薬事のキャリアを分厚くしていきます。

誤解がないように申し上げると、薬機法やGCP省令の知識は書籍や研修だけで身につくものではありません。実際の申請案件を通じて、規制当局とのやり取りを経験することで、初めて実践的な理解が深まります。このため、転職先を選ぶ際は「どんな種類の申請案件を経験できるか」を確認することが、専門性を積み上げる上で重要な判断材料になります。

2-1. 疾患領域による専門性の分かれ方

薬事の専門性は、特定の疾患領域やモダリティ(低分子・抗体医薬・再生医療等製品など)に紐づいて深まっていく傾向があります。同じ薬事職でも、扱う製品によって専門知識の中身は大きく異なります。再生医療等製品のように比較的新しい制度枠組みを扱う経験は、対応できる人材が少ないぶん市場価値が高まりやすい領域です。一つの領域を深掘りするか、複数の領域を横断的に経験するかは、キャリアの早い段階で意識的に選んでおくと後々の方向転換がしやすくなります。

3. グローバル薬事という上位のキャリア

国内での申請経験を積んだ先に見えてくるのが、より難易度の高いグローバル対応の世界です。ここに挑む人は業界の中でもまだ多くありません。

国内の承認申請実務を数年経験した後、英語での規制当局対応や海外子会社との連携を担うグローバル薬事へ移るキャリアパスがあります。僕の周囲の実感で言うと、この領域の需要は近年特に高まっており、語学力に加えて海外の規制枠組み(米国FDA・欧州EMA等)への理解を積み上げることが移行の鍵になります。

3-1. 実務パート——グローバル薬事に向けた準備の3ステップ

  1. 国内申請で扱った疾患領域・モダリティを整理し、海外展開が見込まれる案件を優先的に担当できるよう社内で希望を伝える。
  2. 英語での規制文書(Common Technical Document等)の読解を、業務外でも継続的に行う。所要時間の目安は週2〜3時間。
  3. 海外規制当局のガイドライン改定情報を定期的に確認する習慣をつける。半年に一度、変更点をメモにまとめるだけでも理解が深まります。

4. 今、薬事人材の採用市場で起きていること

2026年の政府の成長戦略では創薬分野が重点領域の一つとして位置づけられており、承認審査プロセスの迅速化に向けた議論も継続的に行われています。こうした政策の動きに伴って、規制対応の実務を担う薬事人材の需要は底堅く推移しています。加えて、バイオベンチャーの資金調達が活発化する局面では、初めての承認申請を控えた企業からの薬事人材採用ニーズが特に強まる傾向があります。ベンチャー企業では薬事担当者が1人で申請業務全体を背負うケースも多く、大手で分業されていた業務を一気通貫で経験できるという意味で、専門性を急速に高められる環境でもあります。CRO・CDMO市場の拡大も、受託側での薬事支援業務という新しい選択肢を生み出しており、複数クライアントの申請案件を横断的に経験できる環境として注目されています。

4-1. 中小・ベンチャーでの薬事は「一気通貫」経験の宝庫

大手製薬企業では、薬事業務は申請区分ごとに細かく分業されているのが一般的です。一方、中小企業やバイオベンチャーでは、薬事担当者が1人、あるいは少人数のチームで、資料収集から当局との折衝、承認後の維持管理まで一気通貫で担うケースが多く見られます。分業体制では得にくい「申請の全体像を把握する経験」を積める点は、キャリアの後半で大きな差になります。転職先を検討する際は、会社の規模だけでなく、どこまでの業務範囲を任せてもらえるかを具体的に確認することをお勧めします。

4-2. 面談でよく聞く「薬事は激務なのか」という質問

承認申請の締め切り前など、時期によって業務量が大きく変動するのは事実です。ただし通年で見れば、CRAのような出張中心の働き方と比べて、デスクワーク中心で自分の時間をコントロールしやすい職種だというのが僕の体感値です。繁忙期の集中度と閑散期のバランスは会社によって差が大きいため、面接で「直近1年の繁閑の波」を具体的に質問しておくと、入社後のギャップを防げます。

(結論)目立たない専門性こそ、長く必要とされる

薬事職は、華やかさよりも正確さと粘り強さが問われる仕事です。ですが、この地味な専門性こそが、新薬を世に送り出す最後の関門を支えています。専門性を積み上げる意識を持って案件を選べば、替えのきかないキャリアを築ける職種です。

皆さんいかがでしたでしょうか。地道な仕事ほど、実は代わりのきかない仕事であることが多いものです。薬事職への適性が気になる方は、適性診断で法規制への向き合い方の傾向を確認してみてください。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 薬事職への転職は薬剤師資格が必須ですか?

必須ではありません。薬学部出身者が多い職種ではありますが、生命科学系・化学系の学部出身で製剤や品質管理の実務経験がある方が薬事職に転身するケースも一定数あります。資格よりも法規制の理解力と文書作成の正確さが評価される職種です。

Q. 薬事職の仕事は地味で将来性がないと言われますが本当ですか?

地味に見えるのは事実ですが、将来性がないというのは誤解です。新薬の承認には薬事の専門知識が不可欠で、替えがきかない専門職として評価されます。近年はグローバル申請に対応できる薬事人材の需要が特に高まっています。

Q. 薬事職からグローバル薬事へのキャリアアップは可能ですか?

可能です。国内の承認申請実務を数年経験した後、英語での規制当局対応や海外子会社との連携を担うグローバル薬事へ移るキャリアパスがあります。語学力に加えて、海外の規制枠組みへの理解を積み上げることが移行の鍵になります。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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